今知るべき、意味と真実。

VETEMENTSが
教えてくれること。

TEXT: MAIKO SHIBATA (RESTIR CREATIVE DIRECTOR)

SS19のVetementsほど
心を揺さぶられたショーはない。

ありきたりな日々とファッションサイクルに飽き飽きしていた人々に、強烈なインパクトを与え、彗星の如く現れたこのブランドは、あまりにも衝撃的で一気に炎がついた。ファッションのプロですら、久しぶりに再会した大胆な着想とデザインに熱狂させられ夢中になった。だからこそ、その反動で“VETEMENTSはもう売れない”という記事が出たり、否定的な事が囁かれるのも当然のことかもしれない。

しかし、今回のコレクションは色々な意味で衝撃だった。そして改めてVETEMENTSの強さを思い知らされた。ありがちなアーミーやカモフラージュとか、そういうファッショントレンド的な着想ではなく、彼が幼い頃、内戦によって生まれ故郷を離れざるを得なかった、重く暗い記憶の中にある自己と向き合うという非常に強い意味合いを持つコレクションになっている。

まさに彼自身の人生を描いたものだ。デムナと弟グラムが育ったジョージアで90年代に起きた内戦。 幼くしてその悲劇に巻き込まれたその怒りを、恐怖を、痛みを、このショーは表している。

普通だったら思い出したくもないし、辿りたくもないであろうこの記憶に向かい合ったということに大きな意味がある。実際に彼は、2年間もセラピストにかかっていたという。そして、クリエイション的にも幸福であると感じる今、吐き出しても安全だと感じる今、それを一気に形にした。

VETEMENTS VETEMENTS SS19 SHOW INVITATION

ショーが行われたのは、パリ郊外、中東やアフリカから亡命してきた移民の人たちが道にテントを張って浮浪者のように暮らすエリアである。人々が思い浮かべる華やかなパリとはかけ離れた空気がそこにある。高架下に設置したランウェイに真っ白なテーブルクロスをかけて、白いレースで飾り付けたそれは、まるで結婚式のようなハッピーな雰囲気だった。この相反する光景は、自ずと戦争や難民の問題について人々が意識をせざるを得ない環境を作ったし、そしてそれは過去に彼が経験してきたことでもあり、そして今も世界のニュースを見れば毎日起こっている現実である。

コレクションにもメッセージは数多く含まれていて、例えば一見Jean Paul Gaultier風、もしくはJohn Galliano風と思われがちなタトゥーのプリントのトップスは、実はジョージアの刑務所のマフィアの人たちが自分の所属を示すのに入れているものだったり、デニムジャケットに描かれているジョージア語は、幼い頃、父親が朝いつも読んでいた詩だったり、それ以外の様々なアイテムにも全て意味合いがあるのだけど、それは商品につけられたQRコードから、Vetements Appにジャンプするとwikipediaやら様々な所にジャンプするという仕掛けつき。また、覆面風フーディーを着たルックは、1993年に爆撃を受け兵士に囚われそうになり、家族で国を離れて逃げるのだが、その時彼が目撃し、記憶の中にある光景だ。

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“Vetementsってまだ売れているんですか?”とか、“〇〇ってVetementsよりイケてますよね?”とか、そういったそこらへんに転がっているセリフを思わず鼻で笑ってしまう。シニカルなプリントや一見コピーのように思えるデザインの中に、どれだけ多くのメッセージや記憶が隠されているのだろう。逆に、裏側に潜む深い意味合いに気づかれることなく、軽いタッチで消費者に受け入れられているのだとすれば、むしろ彼は天才なのかもしれない。

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独特な文化とアイデンティティーを守るジョージアへ 実際に私は、5月にジョージアへ行った。コーカサス山脈を望む美しい自然に囲まれ、ワイン発祥の地と言われるだけあって、他では絶対飲むことのできないオレンジ色をした最高に美味しいワインがあり、新しさと旧ソビエトの時代の建物が混在するその雰囲気は、とても魅力的であった。とにかく一言では言い表せないほど素晴らしい街だった。旅好きな人の間では、“人生で訪れた中でもっとも素晴らしい国”とも言われている。地理的には、北にロシア、アジアの西に位置し、北海道くらいの小さな国であるが、独特な文化とアイデンティティーを守るジョージアは、独自の言葉と文化を同様に持つ日本人にとって何だか近く感じた。

旧ソ連ということでロシア的な要素を探して見たものの、古い建物と郊外で訪れた際に見たオブジェ以外には滅多に感じることはなかった。91年のソ連崩壊後に共和国として独立した後にも様々な出来事が襲いかかり、侵略と戦争の中にあった国である。その中にあって、彼らは自分たちのアイデンディティを最も大切と捉え、独自の文化と伝統、そして言語を守った。それはとても大きなことである。今シーズンのVetementsに多用されているジョージア語のアルファベットの形はとても個性的であり、そして美しい。

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今ではもう戦争の面影はなく、一歩一歩前へ歩みを進めているジョージア。SS19のVETEMENTSで描かれた世界は、これからの未来、もう二度とそうさせないという強い思いを着るという、そんな思いが込められているのではないか。軽んじられがちなファッションだって、強いメッセージを発信することができる、それを教えてくれたのがSS19のVETEMENTSだった。

この世に数多く生み出される服の中で選択されるべきものは、
強いメッセージを持つものではないだろうか。

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SS19 COLLECTION

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